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季節の一瞬をとじこめた『ボタニカルソーダ』が生まれた場所を訪ねて

季節の香りをそのまま移し込んだシロップをつくっている「GRAND ROYAL green」の井上隆太郎さんを訪ね、千葉県・鴨川へ。

2018.06.28 THU
季節の一瞬をとじこめた『ボタニカルソーダ』が生まれた場所を訪ねて 季節の一瞬をとじこめた『ボタニカルソーダ』が生まれた場所を訪ねて

風に乗って漂ってくる花や若葉の香りが教えてくれる、季節の移り変わり。
SHISEIDO THE TABLESの『ボタニカルソーダ』は、咲いた直後の花やフレッシュな新芽など、その時々にしか感じられない季節の香りをそのまま移し込んだシロップでつくっています。

このシロップをつくっているのは、千葉県・鴨川でエディブルフラワーといわれる食べられる花やハーブの生産を行う「GRAND ROYAL green」の井上隆太郎さん。SHISEIDO THE TABLESの『ボタニカルソーダ』のために、梅の花や、桜の花など、季節に合わせたシロップを製造していただいています。

初めてこの『ボタニカルソーダ』を飲んだときに驚いたのは、口に含んだとたん、可憐でやさしい風味がふわりと広がるとともに、キラキラとした生命力のかたまりのようなものが輝いていたこと。太陽のきらめきや、木々を渡る風といった、樹木や花々が育った「環境」までもが、身体のなかに入ってきたような。季節の移り変わりを知らせる香りに気づいて足をとめ、その香りの中に身をうずめてうっとりと楽しんでいるような、不思議な感覚だったのです。

そんな『ボタニカルソーダ』のシロップはどんなところでつくられているのでしょう?

「食べておいしい花を」という思いとともに鴨川へ。

房総半島の南部に位置する鴨川は海のイメージが強いですが、「GRAND ROYAL green」の井上さんが拠点を構える場所は内陸。小高い山々の間を沢が流れる里山風景が広がり、その周りにたくさんの田んぼがつくられています。このあたりは水がおいしく、粘土層の土地で、長狭米というお米の産地でもあるといいます。

出迎えたくれた井上さんのご自宅の目の前も田んぼ。母屋の前には庭があり、野の花や野草とともに、エディブルフラワーやハーブが育てられていました。
井上さんは造園やガーデンデザイン、装花、イベントなどの空間演出など、20年間以上、植物の仕事に携わってきました人物。5年ほど前からエディブルフラワーに可能性を感じて、ここ鴨川に土地を見つけて花の栽培を始めました。当初は東京から鴨川まで通って世話をしていましたが、3年前、息子さんが生まれたのを機に家族で引っ越し。

今では「もう東京には戻りたくないね」というほど、鴨川という土地とここでの暮らしが気に入っているそうです。

そんな井上さんが目指しているのは「食べておいしい花」。
……って、エディブルフラワーって、そもそも食べるためのものではないのですか?

「エディブルフラワーは食用につくられた花とはいえ、飾り的要素がまだまだ強いんです。食べる人もいるのですが、食べない人のほうが断然多くて、見た目はキレイだけど、花は避けられてしまうことが多いんです。でも、僕はそれを超えていきたい。だからこそおいしく食べられる花をつくっています」

季節ごとに花が咲き乱れる「楽園」で花を収穫

そうした花はどんな環境で育てられているのでしょう。

「家のまわりにもいろいろ植えていますよ。ハーブは今年借り受けたばかりのハウスで、木々は山。僕、山をまるごとひとつもっているんですよ。今から行ってみましょう。本当楽園ですよ」

といって連れて行ってくれたのは、車で20分の小高い山。普通の車では登れない坂もぐんぐんとジープで登っていきます。

「ここからは歩きです。長靴を履いていきましょう」と言う井上さんについて、低木をわけいるように進んでいきます。

この場所は俳句の先生をやっていた女性が夫婦で移り住み、35年かけて少しずつ開拓して、桜や梅、金木犀などの木々を植えながらつくられた「楽園」。しかしながら諸事情によりご夫婦はこの土地を離れないといけなくなり、環境を活かしながら使ってくれる人を探していたところ井上さんが登場。1500坪もの土地をまるごと借りることになったそうです。

「ここに梅の木が100本くらい植わっているんです。花の季節はすごいですよ。辺り一面に梅の香りが漂います。夏前には2〜3トンの梅の実が取れますよ」

SHIEIDO THE TABLESの『梅の花のボタニカルソーダ』のシロップもこの梅の花が原料。グラスに添えた梅の枝もここから切り出したといいます。歩いて開けた場所に移動すると、今はボロボロになってしまった母屋があり、その周りにはコブシやモクレン、八重桜ほか、それぞれの季節に花を咲かせる木が植えられているそうです。それぞれの季節の花を愛でながら暮らしていたのでしょう。ここはまさしく楽園なんだと感じます。

「ね、ほんといいでしょ。僕、この場所が大好きなんです。今はモクレンやコブシが咲いています。このふたつもシロップになりますよ。モクレンは食べると生姜のような味がします。今年はあっという間に山桜が散ってしまいましたが、先日から八重桜が咲き始めました。八重桜もおいしいんですよ。これからの季節だとそうですね。藤やクチナシ、ライラック、タイサンボクが咲きます。どの花も食べておいしいし、香りのいいシロップができますよ」

「あ、モミの新芽がでている。これもおいしいんですよ」

食べられるとしてあがった花や植物の名前を聞くたびに、「え、そんな花まで食べられるのですか?」と驚きながらも、木々から採って差し出してくれた花を言われたままに口に放り込み、むしゃむしゃパクリ。たしかにモクレンは、シャリシャリとした歯ざわりで、ショウガっぽさが感じられる味でしたし、モミの新芽は清涼感あるグレープフルーツのような味がしました。けれども八重桜に関しては花びらをむしゃむしゃ咀嚼している感覚しかもてず「おいしいでしょ?」といわれても、生返事しかできませんでした。

井上さんはそんな我々のとまどう姿を見ながらも、「戻ったらこれをシロップにしてみましょう」とうれしそうに八重桜の花びらを収穫しています。

季節の香りをそのまま移すシロップづくり

シロップの作り方は、沸騰した水に砂糖を入れて、そこにキレイに水洗いした花びらをいれたら火を消し、蓋をして5分。花びらの量や浸す時間はそれぞれの花によって調整。えぐみや渋みがでないようします。

難しい工程はありませんが、ごみや虫が入らないよう、何度か水を換えながら花びらを水洗いする工程は丁寧に行います。最初に洗う水の中に白ワインを少し入れておくと、花びらにアルコール分が浸透して香りが抜けにくくなるそうです。
通常は工房でシロップづくりを行いますが、この日は井上さんのご自宅で作業をしていただきました。

「さあ、もういいでしょう」

花びらをいれて火を消したあと、5分たって蓋を開けたとたん、桜の香りがふわーり。さきほどまでは、香りなんてまったくしなかったにもかかわらず、漂い始めた香りに、思わず感嘆の声をあげました。

鍋のなかのまだ温かい液体をすくって味見をすると、口の中に香りが弾け飛びます。これはたしかに桜餅などで親しんでいる桜の香りです。桜餅で食べる桜は、塩漬けだからしょっぱいですが、このシロップは甘さのなかに桜が香ります。

実際に花が咲いているときはあまり感じるこのない桜の香りですが、こうしてシロップになると、しっかり感じることができる。ちょっとした魔法のようでもあります。

「咲いたばかりの時期の花を収穫して、すぐにシロップにしたからここまで香ります。これがあと数日遅かったり、収穫してしばらく時間をおいてしまったりすると、これほど香らないんです。シロップもエディブルフラワーも、最も重要なのは鮮度。だから大量生産はできないし、取引先もそれほど多くはもっていないんです」

井上さんは、エディブルフラワーやハーブも注文を受けてから収穫します。その後すぐに出荷すれば、その日の夕方には東京のフレンチレストランやバーに新鮮な状態の「おいしい花」が届けられるからです。

自然の状態で育てられたものだからこそ、 環境そのものが味わえる

鮮度とともに井上さんがこだわっているのは「自然のままの状態」であること。鴨川で花をつくり始めたときは、休耕田を整備して数種類の植物の種を巻き、雑草を抜かない「野原」のような場所で超自然農法をしていました。

「僕、土が見える畑って好きじゃないんですよ。だって、見渡すかぎり土って不自然だと思いません? 自然界にそういう状態ってないじゃないですか。同じ場所でひとつの作物だけ植えるのも人間の作業効率を考えてのこと。スプラウトを水耕栽培するのも同じ。でも僕は自然の状態であることが好き。季節をはずした栽培はしたくないですし」

イノシシなどの野生動物の被害や大雨の影響で注文が追いつかなかったため、今年からは借り手を探していたハウスがあったので、ハーブの栽培を開始。もちろん、ハウスであっても化学肥料や農薬は使いません。種から土で育て、年間で100種類近くのハーブを栽培する予定です。今年から本格始動する江口宏志さん代表の「mitosaya大多喜薬草園蒸留所」でのフルーツブランデーづくりにも参加。材料となる果樹も育てているので、今後がどうなるか楽しみです。

ゆくゆくはすべてを「山」で育てるのが理想形。
「もうすでにおもしろい木々を山に植えているんですよ。落ち着いたら、山の中の母屋や東屋も修理して、来てもらった人にごはんを食べてもらえるような場所をつくれるといいなと思っています。10年後には、もっといい場所になっていると思います」

こうした思いの込められた場所にしっかりと根を張り、風を受け、太陽の日差しを浴びながら咲かせた花からつくるシロップだからこそ、『ボタニカルソーダ』からは花の香りとともに、この場所そのものである自然の生命力も感じることができるのでしょう。

SHISEIDO THE TABLESは、井上さんが自然を移しとったシロップが味わえる数少ない場所。みなさんも『ボタニカルソーダ』で季節のうつろい、自然の生命力を感じてみませんか?

取材・文/岡田 カーヤ、写真/浦川 良将


4月19日に行われた「五季膳の会〜新緑の季節〜」は、井上さんがスペシャルゲストとして登場。
山の季節を閉じ込めたこの日のためのスペシャルドリンクを用意していただきました。

井上隆太郎
エディブルフラワーとハーブの農家
ウィンドウディスプレイやイベントでの活けこみ、装花やガーデンデザインを本職とするフローリストとして出発し、2014年から千葉県鴨川市の里山を拠点に、完全自然農法でハーブ&エディブルフラワーを生産する。2018年春から千葉県大多喜でフルーツブランデーの蒸留所を作るプロジェクトに参画。

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季節の一瞬をとじこめた『ボタニカルソーダ』が生まれた場所を訪ねて

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